入ってくるエネルギーと出ていくエネルギー
地球の気温は、太陽から吸収するエネルギーと宇宙へ放射するエネルギーがつり合うところで決まります。太陽光は大気の上端に S0 = 1,361 W/m² で届きます。地球はそれを円盤として受け止めますが、球としての表面積はその 4 倍なので、表面全体の平均は S0 ÷ 4 = 340 W/m² です。そのうち約 30% (アルベド α) は雲や氷、明るい地面にそのまま反射され、238 W/m² が吸収されます。
物体は 1 平方メートルあたり σT4 を放射します (シュテファン・ボルツマンの法則、σ = 5.67 × 10−8 W/(m²·K⁴))。σT4 = 238 とおくと
Te = (S0(1 − α) ÷ 4σ)1/4 = 255 K = −18 °C
これが温室効果のない場合の地球の気温です。実際の平均地表気温は約 15 °C で、33 度高くなっています。
温室効果
太陽光の大部分は可視光で、空気はそれを通します。暖められた地面は 10 µm 前後の赤外線を放射し、水蒸気・二酸化炭素・メタンなどの気体がその赤外線の多くを吸収して、下向きも含めたあらゆる方向へ放射し直します。そのため地表は太陽と大気の両方からエネルギーを受け取り、その両方とつり合うだけ放射できるまで暖まります。大気が地表の赤外線の割合 ε を吸収する 1 層モデルでは
Ts = Te × (2 ÷ (2 − ε))1/4
となり、ε = 0.77 で観測どおりの 288 K になります。(実際の温室が暖かいのはおもに暖かい空気が上へ逃げないためで、このしくみによるものではありませんが、名前だけが定着しました。)
放射強制力
温室効果ガスが増えると、大気は出ていく赤外線をより多く吸収するので、地球が暖まるまでは、受け取るエネルギーより失うエネルギーのほうが少なくなります。変化の直後のこの不均衡が放射強制力 ΔF です。CO₂ では濃度の対数に比例して増えます:
ΔF = 5.35 ln(C ÷ C0) W/m²、産業革命前の C0 = 280 ppm
そのため、もとの濃度にかかわらず、倍増するごとに 5.35 × ln 2 = 3.7 W/m² 増えます。対数になるのは、最も強い吸収帯がすでにほぼ飽和していて、増えた CO₂ はおもにその縁で効くためです。メタンは M を ppb として約 0.036(√M − √M0) W/m²、アルベドの変化は −(S0 ÷ 4) Δα を加えます。
気候感度
気温は、増えた放射が強制力を打ち消すまで上がります: ΔT = λ ΔF。フィードバックがなく σT4 だけなら λ ≈ 0.3 K/(W/m²) で、CO₂ の倍増あたり約 1.2 °C です。しかし暖かい空気は水蒸気を多く含み (1 度あたり 7% 多く)、水蒸気自体が温室効果ガスです。雪や氷が減ると地表が暗くなり、雲も変わります。これらのフィードバックを合わせると λ は約 0.8 になり、倍増あたりの温暖化、つまり平衡気候感度は 2.5〜4 °C の可能性が高く、最良推定値は 3 °C です。
計算例
CO₂ が 280 から 420 ppm に、メタンが 722 から 1,920 ppb に増えたとします。
- CO₂ の強制力: 5.35 × ln(420 ÷ 280) = 5.35 × 0.405 = 2.17 W/m²。
- メタンの強制力: 0.036 × (√1920 − √722) = 0.036 × (43.8 − 26.9) = 0.61 W/m²。
- 合計: 2.78 W/m²。λ = 0.81 K/(W/m²) とすると、すべてが落ち着いたあとの温暖化は 0.81 × 2.78 = 2.25 °C です。
これまでに観測された温暖化は約 1.2 °C で、これより小さくなっています。海洋がまだ追いついていないことと、エアロゾル汚染 (ここでは扱いません) が太陽光を反射して温室効果ガスの強制力のおよそ 3 分の 1 を打ち消していることが理由です。
気温が応答する速さ
海洋の表層は熱容量が大きく、深さ 60 m の混合層では 1 m²・1 K あたり約 8 W・年です。気温は C dT ÷ dt = ΔF − (T − T0) ÷ λ に従い、時定数 Cλ ≈ 6.5 年で新しいつり合いに近づきます。このモデルが省いている深層の海は暖まるのに何世紀もかかるため、実際の気候は強制力の増加が止まったあとも長いあいだ追いつき続けます。
シミュレーションの使い方
温室効果シミュレーターでは、黄色い太陽光の光子が降りてきて、赤い赤外線の光子が上っていきます。灰色の分子が光子をとらえると光って、ランダムな方向へ放ちます。気温は産業革命前の 13.8 °C から始まり、設定に応じたつり合いの値へ向かいます。試してみましょう:
- フィードバックの設定ごとに CO₂ を 280 から 560 ppm へ倍増させます。つり合いでの温暖化は 1.2、2、3、4.5 °C になります。
- 560 から 280 へ半分にすると、強制力は同じ 3.7 W/m² だけ変わります。対数の効果です。
- アルベドを 0.30 から 0.31 に上げると、3.4 W/m² の冷却が現在の CO₂ の強制力 2.2 W/m² を上回ります。雲や氷がこれほど重要なのはこのためです。
- 太陽を 1 W/m² 変えると (典型的な太陽活動周期)、強制力はわずか 0.17 W/m² で、CO₂ よりずっと小さくなります。
モデルの前提
- ゼロ次元の惑星: 地球全体の平均気温が 1 つだけで、昼夜・季節・緯度・陸と海の区別はありません。
- 熱容量が一定の混合層 1 層だけで、深層の海はありません。
- 簡略化した強制力の式を CO₂ とメタンに使い、メタンと一酸化二窒素の吸収帯の重なりは考えず、ほかの気体・エアロゾル・オゾン・土地利用も扱いません。
- 一定の気候感度 λをメニューから選び、どの気温でも同じ値とします。
- 光子は考え方を示すもので、数値ではありません。 赤外線の光子がとらえられる確率は、説明のために CO₂ とともに上がるようにしています。気温は光子を数えるのではなく、エネルギー収支の式から計算しています。
境界的なケース
- CO₂ 280 ppm、メタン 722 ppb、アルベド 0.30: 強制力はなく、気温は 13.8 °C のままです。
- CO₂ がとても少ないと強制力は負になり、寒冷化します。約 150 ppm を下回ると植物は光合成が難しくなり、これがスライダーの下限です。
- フィードバックなしではプランク応答だけになります。時定数は λ に比例するので、温暖化は最も小さく、つり合いへの接近は最も速くなります。
- アルベドの大きな変化 (氷期、スノーボールアース) はほかのすべてを圧倒します。0.30 から 0.60 にすると約 100 W/m² が失われます。
モデルが成り立たなくなる場合
- フィードバックは一定ではありません。 氷アルベドや雲のフィードバックは気候そのものとともに変わります。ある閾値 (氷床、永久凍土、海洋循環) を超えると、応答は急激で元に戻りにくいものになりえます。
- 地域の気候。 温暖化は一様ではなく、北極は平均の 3〜4 倍の速さで、陸は海より速く暖まります。数値 1 つのモデルでは、雨や嵐や各地の気温については何も言えません。
- 過渡的な温暖化。 深層の海がないので、モデルは数十年でつり合いに達します。実際の気候は濃度が安定してからも何世紀も暖まり続け、海面はさらに長く上昇します。
- 炭素循環。 ここでは CO₂ を手で設定しますが、実際には排出量の約半分を海と森林が吸収し、温暖化はその吸収源を弱めることがあります。
- 金星のような極端な場合。 CO₂ が非常に多いと対数の式も単純な層モデルも使えず、詳しい放射伝達の計算が必要です。
関連ツール
黒体放射シミュレーターでは太陽が可視光で、地球が赤外線で光る理由がわかり、季節と昼の長さのシミュレーターでは太陽光が緯度と季節によってどう配分されるかがわかります。温度は温度の変換で換算できます。